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TOKYO RESIDENCE STORY
3:ﾊﾟｰｸﾊｳｽ世田谷千歳台ｺﾝﾌｫｰﾄ

｢自慢比べ｣

11才になる娘が作文を書いた｡そこには私の知らない父母--75才と70才の姿があった｡
｢小学校に入学したばかりの私は､えんとつから出る煙が､空へ高く昇って雲になるんだと､本気で思っていました｡えんとつは雲を作る機械だと思っていました｡
それは､じいちゃんのせいです｡私のじいちゃんは『ﾎﾗ吹き』なのです｡
『俺は作り話がうまい｡みんなが俺に騙される』と､じいちゃんは自慢します｡千歳台にずっと住んで､小学校卒業も近づいた今の私は､えんとつの煙が雲にならないことを知ってます｡素敵な作り話だったけど､もう､だまされません｡ばあちゃんの自慢は｢じいちゃんの作り話に､だまされない｣ことです｡すると､じいちゃんは『あいつは50年間､ずっと俺にだまされてるんだ』と笑います｡
じいちゃんが笑うと､ばあちゃんは笑いません｡ばあちゃんが笑うと､今度はじいちゃんが笑いません｡お父さんやお母さんや､親せきのおじさんおばさんは､じいちゃんとばあちゃんが一緒に笑ってる所を見たことないって､よく言います｡確かにそうかもしれません｡
ばあちゃんの自慢は､美味しいﾒﾝﾁｶﾂを作れることです｡私の大好物です｡でも､じいちゃんはそれを食べても『美味しい』と言いません｡『ばあちゃんを褒めない』ことが､じいちゃんの自慢だそうです｡
じいちゃんとばあちゃんは､いつも逆です｡私には我慢比べをしているように見えます｡
そんな､じいちゃんとばあちゃんが､口を揃えて『自慢だ』と言うﾓﾉがあります｡それは､特大笑顔のじいちゃんと､特大笑顔のばあちゃんが､二人仲良く並んで映っている一枚の写真です｡ｶﾒﾗﾏﾝは私です｡えっへん｡｣
娘には､これからも私の知らない父母の姿を､ｶﾒﾗに撮ってもらおう｡

TOKYO RESIDENCE STORY
雑誌Invitationで連載中

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1977年東京都生まれ｡距離にして世界4周分の60ｶ国以上を訪れ､枠にとらわれない作品を発表し続ける｡写真集『INNER PASSAGE』がｴｽﾌﾟﾚより発売中｡
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1979年千葉県生まれ｡大学在学中に脚本家ﾃﾞﾋﾞｭｰ｡最近作は､映画『20世紀少年』､ﾄﾞﾗﾏ『ﾌﾞﾗｯﾃﾞｨ･ﾏﾝﾃﾞｨ』(TBS系列で土曜19時56分より放送中)など｡

2008.12.17

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