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旅で出会った家とライフスタイル
vol.7 イタリアから見た日本 その4 (最終回)

文・写真=杉田基博+トランローグ・アソシエイツ

昨年2月、25年前にトスカーナで道に迷った私を、一宿二飯で持て成してくれたリビアーノとイソリーナの、孫のルカ(26歳)から届いた一通のメール。

私は、リビアーノから招待を受け、4月に彼らの住むボローニャを訪ねた。そして昨年末には、建築事務所に勤めるルカと同僚マテオ(28歳)が千葉にある私の家とセカンド・ハウスを訪れた。

京都から東京に戻った二人に日本のライフスタイルの印象を聞いた。


ライフスタイル特集 イタリアから見た日本 vol.7
ルカとマテオが京都で訪ねた桂離宮。
彼らは運良く、烏丸今出川にある宮内省京都事務所で申し込み
当日見学することができた。
photograph: Luca Ladinetti


ライフスタイル特集 イタリアから見た日本 vol.7
桂離宮、松琴亭の市松模様の室礼。
ナチュラルでモダンなセンスが二人の心を捕らえたようだ。
photograph: Luca Ladinetti


「新富町に東京で一番おいしいトラットリアがあるから行ってみない!?」

「いいね!じゃぁ今度、ボローニャの日本食レストランに連れて行くね!」

ルカとマテオはニヤッと微笑んだ。

彼らの言いたいことはこうだ。

「日本で食べるイタリアンが美味しい筈がない。杉田だってイタリアで日本食を食べたいとは思わないだろ!?」

同じようなやり取りは、ネパールでもあった。

かつてカトマンドゥでイタリアン・レストランを見つけた私と妻は、現地で知り合った同じ年のイタリア人女性に伝えた。

「あなたたち、ここで寿司が食べたいとでも言うつもり!?・・・」

食は文化の中でも特に保守的なジャンルなのだ。



東京のイタリアン、星いくつ?

蝦夷鹿のカルパッチョやフランス産ビゴール豚の生ハム、ポルチーニのソテー・・・、私が絶賛推奨するバルベーラ種のワインなどをいただき、メインに丹波産猪を注文する頃には、二人はすっかり店を気に入っていた。

「この店には、5つ星のうちいくつ星をあげられる?」

「4つ星」

ルカは即答した。

「なぜ、5つ星じゃなくて4つ星なの?」

「未だパスタを食べてないからね!」

「なるほど。そう来ますか・・・。じゃぁ、どんなパスタが食べたいですか?」

シェフは納得し、そして尋ねた。

「それはシェフが決めてください」

ルカとシェフはそれぞれの想いを胸に、お互い黙ってニコッと微笑んだ。

パスタは、リゾットを含めて3種を一皿に盛りつけられた。

「う〜ん、旨い!5つ星だね!」

「シェフ、イタリアに来てください!シェフの腕なら間違いなくイタリアで店を出せます!」

日本のイタリアンはまずい、というイタリア人の先入観を払拭する事ができて、ひと安心。

世界各国で日本食ブームが起きている今、日本の食文化レベルの高さは、世界屈指かも知れない。



ライフスタイル特集 イタリアから見た日本 vol.7
「5つ星」を獲得した新富町のトラットリア・ダ・チッチョにて。
日本向けにアレンジしない容赦ないイタリアン・テイスト。右の下がルカ、上がマテオ。
photograph: Luca Ladinetti


日本の社会、ライフスタイルのキーワードは…

心もお腹も一杯に満たされた頃、妻が尋ねた。

「今のイタリアのキーワードは何?」

「…」

「じゃぁ、将来重要と思われるキーワードは?」

「…」

彼らは、質問の意味は理解したが、普段考えたこともないテーマのようで、なかなか言葉が見つからなかった。

「例えば、イギリスであればサスティナブル(持続可能な社会、経済)だったり、日本ならエコロジー(環境にやさしい技術やライフスタイル)だったりするんだけど…」

「今のイタリアには、そのようなテーマを国全体のキーワードあるいはヴィジョンとする経済的な余裕がありません。それができるのは、イギリス、ドイツ、アメリカ、日本のような経済的規模の大きな国だけです」

「えっ、そうなんだ!?」

「でも、この二つのテーマについて言えば、日本の住宅や建材はサスティナブルでもなく、エコロジーでもありません。例えば、日本の窓ガラスは薄過ぎる!イタリアの窓ガラスは厚くて断熱性能が高いため、結果として省エネです。だから、イタリアでは特にキーワードとして掲げるまでもなくサスティナブルなエコ生活を実践しています!」

確かに一理ある。日本の家は、伝統的に夏涼しくすることを目的としているから防寒が甘い。また、現代のビルでも、居住環境の調整を空調など石油や原子力由来の電気に頼り切っている。

以前訪ねた南イタリアの世界遺産アルベロベッロやマテーラで、今でも自然と共生する暮らしを続ける人々の家では、優に1mを越える石の壁によって断熱性能を確保するなど、自然エネルギー活用の知恵が長年に渡って受け継がれていた。

私たちも、世界には科学技術に頼りすぎないエコ生活があることを、知らなければならないようだ。



マテオは、この旅で日本のキーワードを発見した。

「日本のキーワードはefficiencyだと思う。人も電車も、何でも時間通りに動いている。イタリアでは絶対にあり得ない。本当に素晴らしい!」

efficiencyを直訳すれば、「人がむだなく効果的に仕事をするという意味で、有能、敏腕」、また「ものが能率的、効率的」という意味だ。

かつて、時間通りにしかも長時間働き続ける自らをエコノミック・アニマルと自嘲した日本人だが、「無駄無く働き、能率的に生産できる技」は、世界に誇れる日本の国技と言えそうだ。



翌朝、私たちが乗った通勤電車が東京駅に近づいた頃、電車は急に減速し、しばらく停車した。

「日本でも、たまには電車も遅れるんだね!安心したよ。efficiencyは少し言いすぎだったかな!?」

二人は、いたずらっぽく嬉しそうに笑った。

(完)

ライフスタイル特集 イタリアから見た日本 vol.7
横浜港大さん橋国際客船ターミナル。
設計は、イギリス在住建築家のアレハンドロ・ザエラ・ポロとファッシド・ムサヴィ。
海外建築家が活躍する日本は、二人の憧れのフィールド。
photograph: Luca Ladinetti


ライフスタイル特集 イタリアから見た日本 vol.7
ルカとマテオは、京都訪問の後、東京六本木のカプセルホテルに滞在。
昼は都内の建築探訪、夜はクラブを楽しみ、帰国した。
カプセルホテルは二人が建築家として日本で最も体験したかったライフスタイルの一つ。
photograph: Luca Ladinetti


杉田基博+トランローグ・アソシエイツ
「住環境ビジネスをデザインする」をテーマに、住宅・インテリア関連企業の商品開発とブランディングを手掛ける。また、ワークショップやメディア活動を通して、住環境に係わるデザイン・カルチャーを広く紹介している。 詳しくは、ホームページhttp://www.tranlogue.jp/ならびにブログhttp://tranlogue.cocolog-nifty.com/blog/

2009.3.11

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