TRSセレクション -海外- |
大晦日、私と母と妻と子どもの家族4人、私の姉家族3人の計7人は、家で紅白歌合戦を見ながら新年のカウントダウンを行った。 大雑把に書けば、昨年末の紅白の視聴率が約40%、1%当たりの視聴者数が約118万人とのことなので、日本人の約37%の約4,720万人が、紅白を見ながら新年を迎えたようだ。日本の国民的ライフスタイルと言える。 その頃、ルカとマテオは渋谷のクラブで、今まさに新年を迎えようとしていた。 ボローニャで最も有名なスカ・ロックバンドのギタリストであるルカは、日本での建築探訪と同時にクラブ通いを楽しみにしていた。 |
私たち家族は2時を過ぎて寝床に入った。 ルカとマテオは、長旅の疲れもよそに朝まで踊り続けていた。 客から店員まで、たくさんの日本の若者と友達になった彼らの経験は、日本人を肌で知る良い機会になったに違いない。 |
曇天が続き、湿気の多い冬のヨーロッパから来た彼らにとって、抜けるような青空が続く東京の冬は、彼らの目的である建築を見て撮影するにはうってつけだった。 天気のおかげもあり、彼らにとって初めての日本は、とても良い印象になったようだ。 駅まで彼らを迎えに行くと、人一倍タフに見えた彼らも、さすがに疲れ果てた様子だった。 しかし、予め今日わが家で新年のパーティーを行うことを伝えてあったので、彼らは心の準備をしていたらしく、襟を正し正座してテーブルに着き、新年の挨拶を行った。 先ずは、松竹梅と3種類の杯を、全員に順番に回しながらお屠蘇をいただいた。 「チンザノ・ドライのようなハーブ入りのワイン、ベルモットに似ている」 彼らにとっては特別奇妙な味覚ではなかったようだ。二人は「おいしい!」を連呼して次々に飲み干した。 |
「料理はすべて皆さんの手作りですか?」 早速ルカの厳しいチェックが入った。 お節料理は、母と妻の手作り3段重と、石川県の有名料理旅館、加賀屋から取り寄せた3段重の6段構えだ。 海鼠腸(このわた)をはじめ、日本人でも食べ慣れない食材の数々を目の前にして、流石に好奇心一杯の二人も、警戒して箸が止まった。 ルカは一品一品匂いを嗅いでから口に運んだ。その様子がおかしくて皆顔を見合わせて笑った。 マテオは先日来、マグロの赤身がよほど気に入ったらしく、集中的に食べた。 家の近所の魚屋で作ってもらうマグロの赤身は絶品だ。素材の違いもさることながら、包丁と研ぎ、包丁サバキが違う。 マテオはそれを直感的に感じたらしく、舌の上で赤身を転がし、のどへと滑らせた。 ルカは日本の漬物が気に入り、白菜や大根の漬物を次々と口に運んだ。 また、彼らは冷酒を気に入ったようだ。 「味も好みだし、小さなグラスで少しずついただくスタイルや雰囲気が魅力的!」とのこと。 彼らは、日本通として見込みがありそうだ。 |
息子は、ルカとマテオにお気に入りのマンガやフィギュアを披露した。 予想通りに二人は、宮崎駿など日本アニメの多くを知っていた。 特に「紅の豚」や「となりのトトロ」「千と千尋の神隠し」がお気に入りで、後日「三鷹の森ジブリ美術館」を訪ねる予定だ。 日本のサブカルチャー通の彼らだが、日本では大人気のマンガでアニメの「メジャー」を知らなかった。 私は昨年ルカの家に招待された際に出会った日本プロ野球ファンの双子の従兄弟を思い出した。そして息子は、伯父さんからもらった往年の盗塁王、福本豊のサイン・ボールを、ルカから双子の従兄弟にプレゼントしてもらうことにした。 「どうもありがとうございます!」 ルカは目を輝かせた。 「これは私にとっても従兄弟にとっても、重要なプレゼントです。実は、従兄弟から日本のプロ野球グッズを買ってこなかったら殺す!とまで言われました!(笑)。本当にありがとうございます!」 ルカはかしこまって礼を言った。 世界随一のサッカー大国イタリアだが、日本プロ野球ファンだって、ちゃんといるのだ。 |
新年二日。 ルカとマテオは、京都往復の新幹線を予約し、上野にあるル・コルビュジェが設計した国立西洋美術館や皇居、浅草を見学した。 |
家に帰ると二人は、イタリアの祖父母に電話した。傍らで見ていて、とても礼儀正しく信頼できる印象を受けた。 この後、私たちは京都駅前にあるユースホステルに電話して予約した。2段ベッドのドミトリーで3千円台。節約したい彼らには十分な環境のようだ。 彼らは、3日から6日まで京都に滞在して桂離宮など伝統的日本建築や庭園を訪ね、7日に東京に戻って日中はモダン建築を、夜はナイト・ライフを楽しむ予定だ。 正月三日。 三が日を祝ってお屠蘇とお節料理、お雑煮をいただいた。 そして彼らは、京都へと旅立っていった。 私も妻も、わが子が巣立っていくような寂しさを感じ、気持ちが落ち込んだ。 「帰ってきたら、何をしてあげよう?」 考えると、またワクワクしてくる。 他国の他人の子にも親心を抱くものなのだ。 (つづく) |
2009.3.4 |
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